怪談 ~無限~
真夏の暑い公園、蝉の鳴き声だけが異様に響き渡る。ベンチに座る男、健太の額には脂汗が滲んでいた。
その目の前には、異様な二人の姿があった。一見親子のようにも見えるその二人は髪の長い女と少年。しかし、その女は真夏だというのに黒いコートを纏い、顔色は青白く、生気を感じさせない。少年の瞳は虚ろで、まるで人形のようだった。
そのあまりにも異質な雰囲気に、健太は言いようのない不安を感じていた。
女は健太を見据え、冷たい声で語り始めた。
「あなたが今進んでいる道は、血塗られた不幸な未来へと繋がる道。あなたにとっても、彼女にとっても」
「はっ、なんだいきなり。どういうことだ」
健太は、女の言葉に戸惑い、苛立ちを隠せない。
女は、健太の反応に動じることなく、淡々と続けた。
「あなたの彼女への歪んだ想いは、破滅しか生まない。愛と狂気の果てに辿り着くのは、悲惨な末路だけ。引き返すのならば、今が最後の機会よ」
「あんたはなんだ。さっきから、何を言っているのかさっぱりわからない」
混乱して叫ぶ健太に、女は冷たい視線を向けた。
「私は忠告した。あとは、あなたがどうするか決めること。最善の選択をすることを期待しているわ」
そう言うと女と少年は健太の前から立ち去った。
健太は、意味が分からずも女の言葉に激しく心を乱されいた。
以前から健太の心は、同じ職場の20歳も年下の女性、美咲に囚われていた。美咲は、そのあまりにも美しい容姿で職場の誰をも魅了していたが、その心は既に特定の男性に向いていた。
年の差を顧みず、健太は積極的にアプローチを試みたが、美咲の心は揺るがなかった。
諦めようとするたびに美咲への執着が健太の心を蝕んだ。美咲のいない人生など考えられなかった。
ある日、健太は偶然にも美咲が恋人とデートしている場面を目撃してしまう。幸せそうな美咲の姿は、健太の心を嫉妬と憎悪で満たした。美咲を奪いたい、自分のものにしたいという欲望が彼の内側で大きく膨れ上がっていた。
(もはや、美咲を俺のものにするためには、手段を選んでいる場合じゃない)
しかしそのとき、公園で出会った女の言葉が脳裏をよぎる。
(あの女が言っていたことは、このことだったのだろうか。しかし、どうして止められようか。もう俺は、行くところまで行くしかない。たとえ、どんなに後悔することになろうとも)
仕事帰りの美咲の後をつけた健太は、美咲が一人暮らしをしているマンションの部屋に入ろうとした瞬間に、襲いかかった。
美咲の必死の抵抗も虚しく、健太は力ずくで自身の欲望を満たした。心身ともに深く傷ついた美咲は、健太を激しく恨み、憎悪の言葉を浴びせた。健太もまた、頑なに自身を受け入れようとしない美咲への愛が次第に憎悪へと変わりはじめ、狂気に染まっていく。
健太は美咲を監禁し、自身への愛を強要した。しかし美咲は屈しなかった。
「あなたのような男を愛するくらいなら、死んだ方がマシよ」
その言葉に健太は我を忘れ、気づいた時には美咲を手に掛けていた。動かなくなった美咲。その美しい瞳は、もはや何も映さない。
冷静さを取り戻した健太は、罪悪感に苛まれ、警察に自身の手で通報した。
その後逮捕され起訴された健太は裁判へとかけられた。そして健太に下されたのは死刑判決だった。
独房の中、健太は薄汚れた壁を見つめながら、自身の過ちを何度も何度も考え続けた。
健太はハッと目覚めた。
周囲を見渡すと、そこは健太が入れられている独房の中だった。しばらくすると独房の扉が開き、外に出るように刑務官たちに言われる。
「どういうことだ、俺はさっき・・・」
混乱する頭の中で、微かな記憶が蘇ってくる。
「そうだ、俺はこれから刑場に連れていかれ、死刑が執行される」
目隠しされ、首に縄を括られると、足元にあった床が無くなり、下に落ちる感覚の後に、すぐ上半身に強い衝撃を感じ、意識が一瞬のうちに消え去った。
健太はハッと目覚めた。
周囲を見渡すと、そこは健太が入れられている独房の中だった。しばらくすると独房の扉が開き、外に出るように刑務官たちに言われる。
「どういうことだ、俺はさっき・・・」
混乱する頭の中で、微かな記憶が蘇ってくる。
「そうだ、俺はこれから刑場に連れていかれ、死刑が執行される・・・」
目隠しされ、首に縄を括られると、足元にあった床が無くなり、下に落ちる感覚の後に、すぐ上半身に強い衝撃を感じ、意識が一瞬のうちに消え去った。
健太はハッと目覚めた。
周囲を見渡すと、そこは健太が入れられている独房の中だった。しばらくすると独房の扉が開き、外に出るように刑務官たちに言われる。
「どういうことだ、俺はさっき・・・」
混乱する頭の中で、微かな記憶が蘇ってくる。
「そうだ、俺はこれから刑場に連れていかれ、死刑が執行される・・・・・・」
目隠しされ、首に縄を括られると、足元にあった床が無くなり、下に落ちる感覚の後に、すぐ上半身に強い衝撃を感じ、意識が一瞬のうちに消え去った。
彼は無限地獄に囚われたのだ。自身の死の瞬間を、永遠に繰り返し体験することになる。彼の魂が壊れるまで。これが、彼の罪に与えられた真の罰。
髪の長い女と少年が、この世ならざる場所から、永遠と繰り返される悪夢を眺めていた。
「残酷ですね」
「ええ、残酷よ。だから、私は警告した。彼は自身でこの運命を選択したのよ。同情する必要はないわ」
「そうですね」
二人は静かに振り向くと、暗闇の中へと消えていった。
更新日:2025/3/27
バージョン:1.0